ひきこもりやニート、長いあいだ仕事から離れている人が「そろそろ働いてみようかな」と思ったとき、思い浮かぶ選択肢は、一般の求人に応募するか、就労継続支援A型・B型(いわゆる作業所)を利用するか、のどちらかかもしれません。
でも実は、その間にもほかの選択肢があります。この記事では、短い時間から、自分のペースで、少しずつ仕事に慣れていける制度や取り組みを紹介します。
今回取り上げるのは、次の4つです。
就労準備支援事業
認定就労訓練事業(中間的就労)
ユニバーサル就労(千葉や静岡県富士市の取り組み)
地域若者サポートステーション(サポステ)
どれも「すぐに就職できる人」のためだけのものではありません。
働くことがゴールでも人生の必須項目でもありませんが、働きたくなったときに、そういえばこういう制度もあるなと思い出してくれたらうれしいです。
さらにいうと、読みながら「これなら自分にもできるかも」と思えるものが見つかれば、とてもうれしく思います。
長く離れていると、働き始めること自体が大変になる
仕事から離れている理由は、人によってさまざまです。家庭や学校、人間関係、失業がきっかけだった人もいれば、心や体の不調を抱えている人もいます。特に大きなきっかけはなく、気づいたら仕事をしていない期間が長くなっていた、という人もいるでしょう。
ひきこもりやニート、長期無業という言葉は、それ自体が病気や障害を表すものではありません。ただ、理由が何であれ、長く仕事から離れていると、一般の求人に応募すること自体がとても大きな一歩に感じられるものです。
働くというのは、目の前の作業をこなすことだけではありません。求人を探して応募し、面接を受け、採用されたら決まった時間に出勤する。知らない人たちの中で仕事を覚えて、職場のペースに合わせて、それを続けていく。
「作業だけならできそうだけど、雇われて働き続けるとなると急に自信がなくなる」。そう感じるのは、決して特別なことではないと思います。
では、「何もしていない状態」と「一般就労」の間に、もう少しゆるやかな段階はないのでしょうか。調べてみると、日本にはすでにその間をつなぐ制度や実践がありました。
【就労準備支援】働く前の「準備」から一緒に始められる
最初に紹介するのは、生活困窮者自立支援制度の中にある「就労準備支援事業」です。
厚生労働省によると、社会との関わりに不安がある、人とのコミュニケーションがうまく取れないなど、すぐに働くことが難しい人に向けて、原則1年間、一般就労に向けた基礎的な力を養いながら、支援や就労の機会を提供する制度です。
この制度のいいところは、最初から求人への応募を求められないことです。長く仕事から離れていると、決まった時間に外へ出ることや、人と話すことに慣れるところから始めたい人もいますよね。就労準備支援では、そうした段階から支えてもらえます。慣れてきたら、実際の職場で仕事を体験することもあります。
「就職活動ができるところまで、まずは自分でなんとかしてきてください」ではなく、その手前から一緒に歩いてくれる制度だと言えます。
利用するときの入口は、住んでいる地域の自立相談支援機関です。一般の求人サービスのように仕事だけを申し込むものではなく、まず相談をして、自分の状況に合った支援につないでもらう形になります。
【中間的就労】仕事のほうを自分に合わせてもらえる
就労準備支援よりも、もう一歩仕事に近いのが「認定就労訓練事業」です。「中間的就労」とも呼ばれています。
厚生労働省は、すぐに一般就労することが難しい人に、その人に合った作業の機会を提供しながら、個別の支援プログラムに沿って一般就労を目指していくものと説明しています。
一般の求人との大きな違いは、「決まった仕事に人が合わせる」だけではなく、本人の状態に合わせて仕事の内容や時間を調整できることです。
認定就労訓練事業には、雇用契約を結ぶ「雇用型」と、雇用契約を結ばずに仕事を経験する「非雇用型」があります。最初から決まった勤務時間や仕事量をこなす必要はなく、短い時間から始めたり、職場の業務のうち取り組みやすい部分を担当したりしながら、少しずつ慣れていくことができます。
「いきなりフルタイムは無理だけど、少しの時間なら」「全部は無理でも、この作業だけなら」。そんな気持ちから始められるのが、中間的就労のいちばんの魅力かもしれません。
厚生労働省も、就労準備支援と認定就労訓練事業を、一般就労を目指す前の準備として位置づけています。
制度は全国にあるのに、まだあまり知られていない
認定就労訓練事業は、一部の自治体だけの特別な取り組みではありません。
厚生労働省の集計によると、2025年3月31日時点で認定件数は全国累計2,395件。2024年度の利用定員を合計すると6,686人分あります。
仕事の内容もいろいろです。最も多いのは清掃・警備で1,422件。ほかにも福祉サービスの補助、事務・情報処理、クリーニング・リネンサプライ、農林漁業、製造、食品製造・加工などがあります(一つの事業所が複数の訓練内容を持っていることもあるので、数字には重複があります)。仕事の一部を切り出しやすい業務が多いのが特徴です。
一方で、2024年度に実際に受け入れられた人は732人でした。定員の6,686人と比べると、まだかなり少ないのが現状です。
地域に合う受け入れ先があるか、仕事をどう切り出すか、事業所と支援機関をどうつなぐか、といった課題もあります。でも何より大きいのは、「こういう制度がある」こと自体があまり知られていないことではないでしょうか。逆に言えば、知ってさえいれば使える可能性がある、ということでもあります。
【広島市の事例】10年ぶりの仕事は、食器洗いから
実際の事例を見ると、中間的就労のイメージがぐっとつかみやすくなります。
広島市は、就労訓練事業の対象として、長期離職者やひきこもりの人、心身に課題がある人などを挙げています。すぐに一般就労するのは難しくても、短い時間なら、あるいは支援や配慮があれば働ける、という人が対象です。
市が紹介している30代の女性は、10年間仕事をしておらず、人とのコミュニケーションにも苦手意識がありました。まずは仕事に慣れるところから、ということで、事業所で食器洗いや洗濯を担当。3か月の訓練を経て、その事業所でそのまま雇用されることになりました。
別の30代の男性は、過去にひきこもり状態にあり、それまで働いた経験がありませんでした。まず就労準備支援を利用し、そのあと就労訓練事業で施設の掃除を担当。4か月の訓練を経て、生活リズムが整い、周りの人ともコミュニケーションが取れるようになったそうです。
どちらも、「就職できる状態になってから働く」のではなく、小さな仕事を実際にやってみること自体が、次へ進む力になっています。最初の一歩が「食器洗い」や「掃除」でもいいと思えたら、少し気持ちが軽くなりませんか。
【豊中市の事例】生活の相談から、仕事につながる
大阪府豊中市では、「くらし再建パーソナルサポートセンター」で就労訓練事業を行っています。
ここでは生活や家計の相談と一緒に就労支援をしていて、中間的就労については「柔軟な働き方を必要とする方のために、その方に合った作業機会を提供」するものと説明されています。求人を紹介して終わりではなく、生活の困りごとも含めて相談に乗り、その人に合った形で仕事との接点をつくっていくわけです。
うれしいのは、最初から「中間的就労を利用したいです」と制度の名前まで知っている必要がないことです。まず相談してみて、その中で就労訓練という選択肢が出てくる。そんな入口が、自治体の相談窓口の中にちゃんと用意されています。
【千葉のユニバーサル就労】調子に合わせて、段階を戻ってもいい
中間的就労に近い取り組みとして、千葉で長く続いているのが「ユニバーサル就労」です。
社会福祉法人生活クラブ風の村では、「障がいや病気があってもなくても、はたらきたいのにはたらきにくいすべての人」を対象にユニバーサル就労を行っています。長く仕事をしていなかった人も、対象としてはっきり書かれています。
特徴的なのは、働き方を一つに決めつけないことです。風の村では、雇用契約を結ばない「コミューター」という段階と、雇用契約を結んで働く段階があります。事情や体調に合わせて働く時間や日数を変えられて、状態によっては前の段階に戻ることもできるそうです。
一度進んだら後戻りできない、というわけではありません。調子を崩したら、働き方を軽くしてもいい。この安心感は、長く仕事から離れていた人にとって、とても大きいのではないでしょうか。
この考え方を広げているNPO法人ユニバーサル就労ネットワークちばは、現在、千葉市から就労準備支援事業などを受託しています。千葉市就労準備支援室では、長いブランクがある人、働いた経験がない人、働くことに自信が持てない人などを対象に、一人ひとりに合わせた支援を行っていて、職場での就労体験や中間的就労もその中に含まれています。
【富士市】市そのものがユニバーサル就労を進めている
静岡県富士市では、ユニバーサル就労を市の政策として進めていて、市の「ユニバーサル就労支援センター」が相談窓口になっています。
対象は「働きたくても働くことができない状態にある全ての市民」。特定の病気や障害があるかどうかで線を引くのではなく、相談したうえで、本人の希望や状況に合わせた就労支援につなげています。利用料は無料です。
2026年7月の富士市の広報でも、仕事のことだけでなく生活の困りごとも含めて相談でき、本人の状況に合わせて支援を提案してくれる場所として紹介されています。
「まだ普通の求人に応募できる段階じゃない」という状態のままでも相談できる場所が、市の中にある。それだけで、ずいぶん心強く感じられると思います。
15〜49歳なら「サポステ」もある
比較的よく知られているのが「地域若者サポートステーション」、通称サポステです。
サポステは厚生労働省の委託事業で、働くことに悩みを抱えている15歳から49歳までの人が対象です。2025年4月時点で全国179か所にあります。相談や就職活動のサポートだけでなく、実際の職場で仕事を体験できる機会もあります。
基本的には就職を目指すための支援で、49歳までという年齢の上限もあります。それでも、いきなり求人に応募するのが難しい人にとって、仕事との間にもう一段ステップをつくってくれるという点では、中間的就労やユニバーサル就労と共通しています。
仕事のほうを人に合わせるという考え方
ここまで見てきた制度に共通しているのは、この考え方だと思います。
一般の求人では、まず仕事があって、それができる人を募集し、条件に合う人を採用します。これは労働市場としてはごく普通の仕組みです。ただ、長く仕事から離れていた人にとっては、「最初からその仕事を全部こなせること」が参加の条件になってしまいます。
中間的就労では、職場にある仕事を細かく見直して、その人が今できる部分を切り出すことがあります。広島市の事例で、いきなり施設の仕事全体を任されるのではなく、食器洗いや洗濯、掃除から始めていたのもその一つです。
本人を既存の求人に合わせるだけでなく、仕事の側にも調整の余地をつくる。この考え方が広がれば、働ける人の範囲はきっと大きく変わるはずです。
気になるお金のこと
一つ気になる点もあります。非雇用型の就労体験では、通常のアルバイトのように最低賃金に基づく賃金が必ず出るわけではありません。
仕事に慣れること、生活リズムを整えること、人とのつながりをつくることそのものが目的になる場合もあり、それはそれで大切なことです。
ただ、長く仕事から離れていた人にとっては、外に出て、新しい場所で、知らない人の中で作業をすること自体が大きな負担です。そんなとき、「自分で働いてお金を得た」という経験が、続ける理由になる人もいるでしょう。
ユニバーサル就労ネットワークちばの仕組みでは、非雇用型の中にも無償の段階だけでなく有償の段階が用意されていて、その先に雇用型があります。気になる制度があれば、報酬があるかどうかも相談のときに確認してみるといいと思います。
こうした仕組みが広がっていくなら、ハードルを下げることと同時に、「参加してみたい」と思える対価をどうつくるかも考えていく必要がありそうです。
週に一度、数時間からでもいい
無職と一般就労の間にある選択肢は、もっとあっていいと思っています。
最初から週5日働く必要はありませんし、週3日のアルバイトから始めなければいけない理由もありません。
まずは週に一度、数時間だけ仕事に参加するところからでもいいはずです。
みんながみんなフルタイムで働けるわけでもない。
中間的就労やユニバーサル就労では、実際に本人に合わせて仕事の内容や時間を調整する取り組みが行われています。ただ、利用者数を見る限り、まだ誰にとっても身近な選択肢とは言いにくいのが現状です。制度を知らない人も多いでしょうし、知っていても、自分の地域にどんな受け入れ先があるのか分かりにくいこともあります。
まずはどこに相談すればいい?
「ちょっと気になるかも」と思ったら、次のような窓口から始めてみてください。
住んでいる地域の自立相談支援機関(就労準備支援や中間的就労の入口)
地域若者サポートステーション(15歳から49歳まで)
千葉市就労準備支援室(千葉市)
富士市ユニバーサル就労支援センター(富士市在住の人、利用料無料)
制度の名前を覚えておく必要はありません。「長く働いていなくて、いきなり就職するのは不安」と、そのまま伝えるところから始めて大丈夫です。
おわりに
調べてみて分かったのは、一般就労が難しい人のための仕組みが、すでに日本の中にあるということです。国の制度として就労準備支援や認定就労訓練事業があり、広島市や豊中市のように実際に活用している自治体があります。千葉ではユニバーサル就労が長く続けられていて、富士市では市そのものがユニバーサル就労を進めています。
規模はまだ大きくありません。それでも、「一般の求人に応募できないなら、まだ働けない」以外の道は、もう試され始めています。
長く仕事から離れている人の状況は、一人ひとり違います。すぐに働ける人もいれば、まず生活を立て直したい人もいる。医療のサポートが必要な人もいれば、そうではないけれど長いブランクのせいで一歩が踏み出しにくくなっている人もいます。だからこそ、入口が一つである必要はありません。
できる範囲の仕事から始めてみる。やってみて、もう少しいけそうだと思ったら次へ進む。しんどくなったら、今できる範囲に戻る。
そんな働き方が、一部の地域だけの特別なものではなく、もっと当たり前の選択肢として広がっていってほしいと思います。
この記事が、「自分もちょっと試してみようかな」と思うきっかけになればうれしいです。